青嵐緑風、白花繚乱
         〜789女子高生シリーズ

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。
 


      6



 せっかく七郎次が報告して来た事態だというに、佐伯刑事へ関心持たせるための、さりげない(わざとらしい?)仕掛けは残したくせして、当の本人は現場に居合わせなかった勘兵衛だったのは。

 「女学園側へ、波風立たぬようにという根回しをな。」

 警視庁関係の令嬢も何人か通っておいでの女学園…だとはいえ、そんな彼女らは だからと言って刑事ばりの色々を身につけてなんか おりはせぬ。だって言うのに、相変わらずに、こちらの3人娘がまたまた大暴れをしたようですが、あくまでも正当防衛の範疇ですんでご理解をと。学園長と生活指導のシスターへ、自然のじわじわバレるよりはと 先んじて大体の輪郭をほのめかし、あくまでも人助け、同じ学園生の難儀を看過出来なんだだけとの抗弁をしておいて下さったのだとか。

 「あらまあ、気の利いたことを。」
 「そうそう見くびらんでほしいものだの。」
 「勘兵衛様…。」

 平八の棘つきの言いようへ、こちらさんも…手短な言いようながら、しっかりと受けて立っての大人げなくも言い返していた壮年だったのは、本心からか茶目っ気か。佐伯刑事が呆れた傍ら、
「………。」
 伏し目がちの半目という遠い目になった紅バラ様もまた、似たような感慨に襲われたらしかったが、

 「お気遣いをありがとうございますvv」

 素直に礼を述べた七郎次だったことへは意外なほど面食らったらしく、

 「い、いや、礼を言われるほどのことでは…。」

 たじろいで見せた壮年だったのは……此処だけの話。大タヌキ様は案外とピュアな善意には弱かったらしいです。
(苦笑)

 「それにつけても、
  こういうところが無防備すぎますよね、今時のお嬢さんたちは。」

 当初はあの江威子様だって、相手側の手先かもしれないんだぞと、よりにもよって久蔵が懸念したほどだったんですものねと、水色のソーダにバニラアイスを浮かべた涼しい飲み物で喉を潤しつつ、ひなげしさんがペロリと恐れ知らずにも言い放てば。

 「…林田。」
 「判ってます、言い過ぎました。」

 アイスを沈めてソーダに泡を吹かせるぞとの意思表示、手にしたストローを振りかざした久蔵だったのへ。謝ります、ゴロさんのチョコ風味ワッフルで手を打ってくださいませな。承知…という、お約束の横道へと逸れてから。

 「まま その点は、シチさんがさっき本人へも言ったような、
  △△さんを案じていた心情をこそ、
  隠していた反動だったワケだったんですが。」

 大事なお友達の安否まで、あの連中に握られていると思い込んでた下りの話なのは、わざわざ繰り返さずともこの場にいた大人たちへも通じたようであり。そもそも、財閥や良家の令嬢ともなると、派手な遊びなんてものへ耽っている暇はない。先々でその身の置きどころとなる社交界での覚えを善くするためにと、様々な習い事でスキルを上げにゃあならないし、関係筋の方々とのお付き合いも始めにゃならぬ。それでもどうしても過激な刺激を味わいたいならば、取り巻きがお膳立てを取り揃えてくれるだろうし、万が一にもそういった“大人の補佐”がない場で過ちが起きたなら、金と人脈をフル稼働させて“無かったこと”にしてしまうくらい造作のないこと…というレベルのお家の方々ばかりだってのに。

 「江威子さんの場合は、
  つか…ウチの女学園のお嬢様たちは、
  足の引っ張り合いにさえ縁のないほど、あまりに育ちが善すぎるものだから、
  そういうお立場だって自覚もなかったんでしょうね。」

 いっそ素直に親御へ相談すりゃあよかったのだ、だよねぇ…と、それこそ大人たちがまずは思いつきそうな最善の対処を口にしつつ、

 「というか、このくらいのことじゃあ動じないほど、
  すっかり世慣れてるアタシたちの方が、実は場違いなのかしらね。」

 とばかり、愛らしい仕草で身をぶつけ合いつつ、クスクス微笑い合った3人娘だったそうで。だがだが、

 「アタシたち?」

 中学までは公立の学校に通っていた七郎次や、アメリカの、やはり特に気取らぬ育ちの平八はともかく、幼稚舎からあの女学園の生徒である、紅バラさんまで一緒くたなのはおかしくないかと。佐伯刑事もご一緒に話の場所を移した“八百萬屋”にて。経緯を聞かされた上で、今の呟きへ…五郎兵衛が微妙な感慨を受けたのだろう、かすかに瞠目しつつオウム返しをしてしまい、
「???」
 勘兵衛もまた同意と言いたげな、どこか怪訝そうなお顔になったものの。それへと何故だか兵庫はそっぽを向き、壮年二人からの注目を受けて立った久蔵お嬢様はといや、

 「あの女学園へ手を出すなんて愚行に、
  その筋の大物が出て来ようはずがないと。
  太鼓判を押したは俺だ。」

 妙に自信ありげに言い放つと、そのまま ちろりと勘兵衛のほうを真っ直ぐ見やって。

 「二年◎組の 宇都木は親友だ。」
 「え?」

 続いた短い言いようへ、やはり キョトンとした五郎兵衛と違い、

 「…ほほお。」
 「それって。」

 勘兵衛のみならず佐伯さんまでもが、おお…と 明らかに何かしらへ納得がいったような顔となっている。唯一事情が通じぬままな五郎兵衛からの物問いたげな顔に気づくと、

 「いやなに、その宇都木というのは“空木”の偽名のはずだからな。」
 「空木?」

 音は同じだが字は違うと、中空へ指先で書いて見せた勘兵衛曰く、

 「空木というのは、六葩会の幹部の名でな。」
 「お…。」

 現在の関東一円を支配下に収めていると言っても過言じゃあない、その筋では有名な広域暴力団の名前であり。とはいえ、常にぴりぴりしていて抗争に発展しそうなというよな危険な気配はここ何十年ほど微塵も起こしてはない、それは安泰な統治っぷりでもあり。今時は 覚醒剤や麻薬にしても、売春だのノミ行為や不正賭博にしても、もっと港に近いところの、それも素人の方がよほど怖くて危ないとまで言われているほどだとか。そんな組織の幹部格として、名の通っている存在の名前でもあるそうで。

 「そうか、噂には聞いていたが、そこのお嬢様も通っていたか。」

 勘兵衛や佐伯さんは捜査一課、殺人や強盗傷害、誘拐略取による脅迫行為などを扱う管轄のお人。そういう犯罪に組織がかかわるケースも少なくはないながら、そちらはそちらで広域組織を監視監督している専任部署があるため、こちらの部署では どちらかといや突拍子もないことをする素人専任の傾向が強い昨今なのだとか。とはいうものの、空木さんとやらに関しては、一応名前や素性程度なら勘兵衛も知っていたらしく。そういう筋の関係者だというだけで、特に問題を起こした経歴まではなし。むしろ、人望厚い、よく出来た人物で。その子に至ってはまだ幼く、躾けも行き届いた行儀のいいお嬢さんに過ぎず。よく周囲が案じるような、当人の問題ではなくとも その存在を利用しようとする輩が起こす“火の粉”がかかる恐れがあるやも…との懸念を遠ざけるため、縁のある知人の元へと形だけ養女に出しての、そこの子供だという格好であの女学園へと通わせているとか。それこそ そういう出来た人の話だからこそ、管轄も所轄も違うとはいえ、勘兵衛の耳にも届いていたらしく。

 「…だが、そういう素性の娘というものは、
  それこそ学園の中でも肩書を隠しているはずだろうに。」

 陰湿ないじめに発展せずとも、遠巻きにされたり何らかの形で影響が出ようことを恐れ、何よりそこから外部へ事情が広まっては何にもならぬからと、厳重な箝口令が敷かれるもんじゃあなかろかと、当たり前の流れとして感じたらしき、学外の大人たちへは。

 「久蔵とは マブダ…親友なのだよ、そのお嬢様は。」

 兵庫殿が、ついつい蓮っ葉な言い方をしかかったのを言い直し、こほんと小さく咳払いをしつつ補足する。何でも、幼稚舎時代にお廊下でゴキブリに追い詰められてたそちらのお嬢様を、必殺 明王の慈悲、上履きカミナリ落とし…力任せに真上から踏み付けるとも言うが…にて退治して差し上げたのが縁で。寡黙で大人しいお嬢様同士、実はすこぶる仲がいいのだとか。

 「う…。」
 「何というか、構図が浮かぶのが恐ろしい。」

 ひよこさんのようなスモックもお似合いの、ちょみっと寸の詰まった頭身をした幼稚園児だった久蔵お嬢様が、やはり表情薄いまま、だんっと害虫退治をし果せているところを、ついつい想像し、微妙な表情となってしまった五郎兵衛と勘兵衛だったのは、ままおいといて。

 「だが、そのお嬢様に頼ろうと思った訳じゃあないのだろ?」
 「無論。」

 ある意味、わざとらしい揚げ足取りにか、いちいち挑発的な言い方をする壮年殿へ。当たり前だと、喧嘩腰とも取れそうな鋭い視線を返した久蔵の卒直さへと苦笑をしつつ、

 「彼女の周辺に配置されていたそれなりの護衛の方々が、
  特に慌ただしさを見せなんだのでと、言いたいのですよ。」

 あとの説明を引き継いだ平八が、

 「それに、先年の窃盗組織の壊滅のお陰様、
  少なくともQ街界隈の勢力図は
  六葩会の穏やかな“仕切り”一色となったらしいので。」

 組織立った何物かが後ろで糸を引いているというよな恐れは、八割方なかろうと踏んでましたし。今時は素人さんにも突拍子もないおっかない人がいないとも限りませんが、それを言ったら登校途中の電車の中にだって居かねないんだし…と、

 「おいおい、そこまで極端な論点のすり替えはナシだぞ。」

 今回のは、ちゃんと…というのもおかしいが、怪しい連中から卑劣な呼び出しくったのだから、そんなことを日常の風景と一緒という扱いにするのはおかしいと。近ごろすこぶる勘兵衛並みに口八丁になって来た平八へ、やっとのこと兵庫せんせえが一矢報いたというところ。何ともしょっぱそうなお顔をなさったせんせえへ、調子に乗ったのがばれたかと そこはさすがに“あはは”と笑ったひなげしさんだったが、

 「とはいえ、今回はちゃんと連絡もしたんですから、
  無茶をしおってとのお叱りはなしですよ。」

 「おいおい、おいおい。」

 大人たちがますますのこと複雑なお顔になったのは、言うまでもなかったりするのだった。




      ◇◇◇



 確かに事後報告じゃあなかったけれど。実際の話、佐伯刑事が…勘兵衛から“気を利かせる彼だろうと見越されて”ではあったが、フォローに駆けつけることも出来たは出来たのだけれども。

 「それでもな。
  わずか二割でも一割でも、危険なほうへ転じかねない事態なら、
  大人しく我らへ任せよと言うておるのだぞ?」

 「はい……。」

 お主らの場合、背伸びの挙句に何でも出来ると錯覚しているような、十代にありがちな有頂天から突っ走っておるワケではないのが、

 「却って恐ろしいのだ。」
 「〜〜〜。//////」

 冷静で解析能力にも長けており、大人の分別もあってのこと、深い洞察も出来る蓄積や聡明さを持ちながら。だがだが、その身は十代の少女なんだという一番肝心なところをついつい見落とす。ただでさえ毒牙が狙いやすい、青くて可憐な対象、しかもすこぶるつきに愛らしい子ばかりだというに。力づくでかかられたって負けないぞとばかり、意気軒高にして鼻息荒いのが、保護者にはどれほどおっかないことか。親御ではないからこそ、何なら屋敷へ閉じ込めてでもというほどの強制力がないのがもどかしくなるような、

  ―― ここまでの行動派なのが何とも恨めしい

 頼もしいのも度を超せば、味方をも案じさせる要素となるという皮肉。だが、

 “……縁がなかった訳ではないがな。”

 八百萬屋を出て、車を止めておいた駐車場までのんびりと歩む勘兵衛と七郎次。宵も間近い住宅地は、土地柄もあるかそれは優しい静かさに満ちており。少し蒸すのに暑くはないのか、きっちりとしたスーツ姿のままな勘兵衛が、ゆったり歩むその少し後から。小さなサンダルに収まるかあいらしい御々足をちょこまかと運んで、まるで付き従うように続くのが、かつての…戦さに翻弄されていた自分たちを彷彿とさせる。転生したことや再会出来たことからして途轍もない奇跡じゃあるが、現世では 女という性別に生まれても、婀娜な色香よりも凛とした清冽さをおびた、玲瓏透徹な魅惑をまとい、真っ直ぐな眸を保ったままな 彼、もとえ彼女であり。本来の根の真っ直ぐさが少しずつ世慣れ、融通を利かせるようになって。癖の強い勘兵衛の古女房を、余裕でこなせるようになったは何年かかった末だったことなやら。当時はそうあった方が生き延びられたから、そんな頼もしさを、哀しい性分と知りつつ咎めることもなかった勘兵衛だったが。今は背景も何もまるきり異なると、そのくらいは判る。

 「……。」
 「勘兵衛様?」

 ふと、立ち止まった大きな背中だったのへ倣って、自分も足を止めた七郎次だったが。だが、一向に振り向くでもないままの御主なのへ、如何されましたかと声を掛ければ、

 「なに。」

 さほど深刻そうでもない、むしろ軽妙な笑みを…形のいいことへいつも白百合さんがこっそりと見ほれる口許へと載せた精悍なお顔が、豊かな髪の向こうから肩越しに振り返って来、

 「そのように後ろに立たれると、せっかくの姿が見えぬなと思うてな。」
 「な……。////////」

 こちらは案じたのに、どこか冗談めかした言いようをなさるものだから。しかもしかも、微妙に惚気を覗かせたお言いようなのへ、かぁっとお顔が赤くなった七郎次だが、

 「そ、その方が、アタシには丁度いいのです。」

 少々蓮っ葉、幇間の言葉遣いを滲ませつつ、それでもはっきりと言い返し、

 「丁度いい?」
 「ええ。///////」

 何故かは敢えて言わぬまま、まだ背中を向けておいでのうち、ほらほら歩いてくださいなと、大きな背中を両手で押せば。おかしな奴だと、喉を鳴らしての苦笑をこぼされる勘兵衛様で。

 “だって…ずぅっと見つめられ続けるだなんて、
  緊張するばかりになってしまうじゃないですか。///////”

 あ〜あ、どうしてなんだろう。逢えない間は、この雄々しいお人に触れたいとか抱きしめてほしいとか思ってやまぬのに。実際に間近になると、眩しすぎてか ただ見つめるのでさえ慣れるための時間の掛かることとなってしまうから、不思議で不思議でしょうがない。

 “日頃あまりにも逢えずにいるから、免疫が薄まってしまうのかなぁ。”

 言うにコト欠いて免疫って……白百合様。
(苦笑) ヲトメ心は複雑で、戦さに明け暮れた侍の気概も、そんな荒らぶる時代の風の中、共に過ごした好いたらしい人だったこともきっちりと覚えているし、何ひとつとして忘れてなんかいないのにね…と。想いをぐるぐると巡らせることに気が逸れていたものか、いつの間にか…腕を突っ張って押してた勘兵衛の背中がすぐの間近になっており、頬を伏せるほど接近していることにさえ気づかぬお嬢様へ、

 “さて、気づかせた方がいいものか。”

 何をさせてもかあいらしい様子へ、しっかりやに下がりつつ、飛び上がっての驚かれてもなぁと、声を掛けそびれていた壮年殿。昼間の名残り、まだ少し蒸す空気を掻き回し、涼やかな風が吹き抜けてった、六月手前の黄昏どきでありました。






   〜Fine〜  11.05.28.〜06.07.


  *悪いことは言わない、あの3人へは関わるなと、
   そんな不文律が、
   おためごかしじゃあなく、恐ろしいまじないのように、
   Q街のやんちゃな顔触れへ広まるのに、
   そう時間は掛からなかったのは言うまでもなかったり。

   「セーラー服でこそないけれど、
    夜叉弁天伝説は本当に誕生しそうですわね。」

   「あははは……。////////」

   都市伝説ってこうやって生まれるのね。(おいおいクドイぞ・笑)


めるふぉvv
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